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Houdiniと、CG技術と、日々のこと。

書評: SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん

本日はマンガ「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」について。

本作品は本日現在連載中のマンガです。なので結末はわかりませんし、作品として最終的な評価もまだ下せないというのが正しいところでしょう。しかし、断言します。これは傑作です。そして連載中の今だからこそ読む価値のある作品です。

作者はあのキッドアイラック!を生み出した長田悠幸×町田一八コンビ。

きっと未知の体験があなたを待っています。

Voodoo Chile

はじめに、ぼく自身についてのお話を少々。ぼくはデザイン業を生業にしているのですが、ギタリストでもあります。(下手でも趣味でもギター弾いてりゃギタリストです)

はじめてギターを手にしたのは中学3年生のとき、受験前にハマって大変でした。謎メーカーの安物ギターだったけど、大事に抱えて寝てました。

月日は流れ、愛機はフェンダーストラトUSAカスタムショップに。きっとジジイになってもこの子を弾くことでしょう。僕の宝物のひとつです。

生まれてはじめてRockを聴いて涙した(比喩ではなく本当に)のはJimi Hendrixの「Killing floor」。*1

NIRVANAに出会ったのは当時発売されたばかりのIn Utero、「そこまで刺さんないなぁ」と思った矢先、前作Nevermindに完全にノックアウトされ、グランジはぼくの青春となりました。(そのあとBLEACHにハマり、一周してIn Uteroも大好きになりました)

そんなRock好きが本当にオススメする本作。前のめりな論評が続くかと思いますがお付き合いください。

Rockなんて聴かない?大丈夫、そんなあなたにもきっと刺さります。

ジミのファズのように。カートのディストーションのように。

Come As You Are

もうね。どのカットもスゴイんですよ。演奏シーンのひとコマひとコマ、どこを切り取っても実在感が溢れている。

ギタリスト本田紫織は、確かにそこにいる。

「ギター アニメ」でも、「ギター マンガ」でもいい。検索してみてください。ギターだけを、人間そのものを、ギターを持った人間をうまく描ける人は数多くいますが、ギタリストをちゃんと描ける人の少ないこと!

検索結果の画像を見て世のギタリストは思うんじゃないでしょうか。「違う」と。

本作ではあまりにも当然のようにこの大きな課題をクリアしています。演奏者の視点からも、観客からの視点からも。これがぼくの愛してやまないストラトです。

立てかけたギターではない、人が演奏しているギターを躍動感を与えながら描ききる。驚異的な画力です。しかもレフティ(左利きモデル)。参考資料少ないだろうに…とモノづくりの観点からも最大の賛辞を贈りたい。

ぼくが今まで見てきたマンガに登場するギタリストで文句なしのぶっちぎり一位が、本作の主人公である本田紫織です。

Are You Experienced?

音楽を、Rockを聴かないあなたにもオススメな理由。それは本作が新たなマンガ表現を成し遂げていること。

それは音の視覚化です。

もちろんバンド物、青春群像劇としても最高ですが、ぶっちゃけ音楽をやったことのない人にも衝撃を与えるでしょう。

  • 新入生歓迎オリエンテーションの出音一発
  • 繰り返し奏で続けるデイ・ドリーム・ビリーバー
  • バンドハウスでの初オリジナル曲
  • ゴミ倉庫でのエモーショナルな独奏
  • メトロノームとシンクロした台場
  • TRAIN-TRAINを熱唱する目黒
  • セル・アウトしてしまったNIRVANAのライブ
  • ジミとカートの共演

そのどれもが素晴らしい。アルバムで言えばシングルカットの出来です。

でも。

紫織がひとり作った新曲がラジカセから流れるシーン

このシーンに出会うために本作を全巻買ってもなおお釣りが来る。

Led ZeppelinのStairway To Heavenのように。

Guns N' RosesのSweet Child O' Mineのように。

QueenのBohemian Rhapsodyのように。

EaglesのHotel Californiaのように。

そして、Jimi HendrixのPurple Hazeのように。

その曲との出会いによって人生が分岐してしまうような。もう後戻りはできないような。

言葉で言い表せない珠玉の名場面です。ぜひ自身の目で体験していただきたい。

そう、このマンガには音が鳴っている。

本シーンはマンガにおける音楽表現として、間違いなく歴史に残ると思います。

We Gotta Live Together

さて、本書表の最初にぼくは連載中の今だからこそ読む価値のある作品だと言いました。

それはなぜか。

この世にはジミヘンもカートもいない。ジャニス・ジョプリンもジム・モリソンもブライアン・ジョーンズもリンダ・ジョーンズもレスリー・ハーヴェイもジェイコブ・ミラーもエイミー・ワインハウスも。皆いない。

未発表曲は掘り出されるかもしれないけれど、新曲を聴くことはできない。ぼくらオーディエンスと同じように歳をとり、同じようにおっさんおばさんになり、同じように体力がなくなったうえで、なお溢れる創作意欲から作り出される新曲を、ぼくらは決して聴くことができない。

でも、僕らにはSHIORI EXPERIENCEがある。この物語は現在進行系だからこそ、未完だからこそ、誰も知らない未来がある。

もしかしたら、あのラジカセから聞こえた音楽より素晴らしい楽曲を聴くことができるかもしれない。

そうやって僕らは最新刊を手にとる。高校生みたいにドキドキしながら。

最高にオススメです。

*1:ジミヘンで一番好きな曲がカバーってのはどうなんだというのはおいておいて