今回はマンガ「ニッケルオデオン」の書評です。赤・緑・青の3作品についてまとめて書きます。 本作品はショートショート集であり、基本的には各話はすべて独立しています。なので赤、緑、青どれを手にとってもいいでしょう。表紙を見て気に入ったものから読み始めても良いかもしれません。
ここでぼくが特に好きな話を列挙しておきます。個別に内容について触れることはないのでご安心を。タイトルに惹かれるものがあったらそれを読んでみるというのも一興かと思います。
おすすめの話
赤
- HeartFood
- コピ・コピ・ルアク
- 竹取パラダイム
- ヒールとスニーカー
- ぷう太の森
緑
- コロンバインで給食を
- 恋わずらいラポール
- 契約
- カミサマレガシイ
- パラノイドアンドロイド
青
- 不死体コンストレイント
- ミシュリーヌとその中の者たちの話
- ほうき星のナルナ
- 積めない方程式
- OKEYA
- うたかたの日々
いかがでしょうか。気になるタイトルはありましたか?ここから本題の書評に入ります。
「ニッケルオデオン」とはなんなのか
ニッケルオデオン(nickelodeon)は20世紀初頭に現れアメリカ合衆国で流行となった、規模の小さい庶民的な映画館。競争の激しい地域のニッケルオデオンにはピアノかオルガンがあり、演奏者がシーンにあう音楽を伴奏した。 -引用: ニッケルオデオン (映画館) - Wikipedia
ニッケルオデオンとはどうやら映画館を意味する言葉のようです。しかし、ぼくが言いたいのは言葉通り「映画館に短編を見に行ったような」といった短絡的な意味ではなく、本作を読むことは「マンガを読む」ということよりも
- 映画を見る
- 食事をとる
- 詩を詠む
に近い体験だと、そう思います。(言葉にするのが非常に難しいのですが。)
「何を言っているんだ」と思われるのはごもっともですが、本当にそうなのだからしょうがない。
しかし読めばわかる。と言ってしまっては書評として元も子もないので、頑張って言葉にしてみましょう。
空間を読む
「行間を読む」という言葉がありますが、ニッケルオデオンの場合は話と話の間にある空きページが実に良い効果を持っているように思います。(ただの白紙と言われればそれまでなのですが)
本作はショートショート集なので、ひとつひとつの話が短いです。その数8ページ。その短いページの中で語られた物語の余韻が、空白のページで消化される。そんな気がします。
そしてそれぞれは独立した話なのですが、この空白のページのお陰で余韻を含みつつ流れるように次の話に続いていく、そんな感覚に陥ります。
そしてこの余韻が、美味しい食事を食べた後のような、よく出来た映画を見て劇場を立つ瞬間のような、心打つ詩を詠みその意味を噛みしめるような。そんな時間を与えてくれる。そう思わせてくれます。
ぼくも多くの漫画作品を読んできましたが、こんなに余白を意識した作品ははじめてです。
これは、新しい。
巻末の仕掛け
これがまたとてもいい味を出しているのですが、巻末にそれまでの物語の登場人物が行進する絵が描かれているのですが。
すごくいい。
よく見ると読み終わった最終話のキャラが最も右に、そしてひとつ前の話のキャラが続いて…と、行進は最終話から第一話に向けて並んでいきます。
- マンガを一話ずつ読んでいく
- 文末の行列で最終話から第一話までのキャラがさかのぼって描かれていく
一冊を通してみるとこういった循環的な構図になっています。物語を読み進めて、最後にまた出会う。何度も読み返したくなる。そんな工夫がなされています。
たった8ページのショートショートなのに、キャラに愛着すら感じるのです。
全体的にフワフワした、とらえどころのない作品群なのに、その根底には実に知的で計算された構成も感じます。完全に独立した作品群なのに、その余韻と巻末の仕掛けによって、ひとつの大きな作品にも感じるのです。
道満清明、恐るべし。
まとめ
空白のページや巻末の行進など、見てみないと伝わらないものなので書評としては口惜しいですが、逆に本作品が最大限魅力を伝えられるフォーマットとしてマンガを選択していることの証明ともいえるかもしれません。
様々なジャンル、テイストの作品が集まった本作品。万人にオススメとは言えませんが、刺さる人には深く刺さり、そのトゲは中々抜けない。そんな作品かと思います。
オススメです。