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Houdiniと、CG技術と、日々のこと。

書評: マンホール

今回はマンガ「マンホール」についての書評です。

ぼくは著者である筒井哲也氏の作品は全て読んでいますが、その中でも最も好きな作品になります。

書評としては別作品の「予告犯」や「有害都市」も非常に語りがいのある作品ですが、その完成度の高さと骨太なシナリオから、本作品をはじめに選びました。

はじめに

本作は本当に完成度が高く、非の打ち所がないと言っても過言ではありません。

  • 圧倒的なキャラクターの実在感
  • 見事な伏線の回収
  • 深い問題提起

そしてそれら重いテーマを扱いつつも、ちゃんとエンターテイメントしている。

重厚でありながらスピード感もあり、上下巻構成というボリューム感も相まって濃厚な読書体験を得ることができます。本書評を書くにあたり読み返しましたが、何度読み返してもグッときます。

絵のタッチもとても良い。次作以降の「予告犯」、「有害都市」の方がより絵はうまくなっていますが、本作品は独特の荒削り感がたまりません。

バイオ・ホラーとういジャンルが苦手でなければ、すべてのマンガファンにぜひ読んでいただきたい作品です。

最初に結論を言ってしまいますが、

本当にオススメです。

これから書くことは非常に小さな、細かい事柄で、本作品の魅力を削ぐものではありません。

しかし個人的には語らずにはいられない内容。ネタバレはしないよう心がけますが、これから本書を読んでみようと思っている方はぜひ先に読破してから読んでいただけるとうれしいです。

喜多嶋という男

本作品には過去いくつもの難事件を解決させた凄腕のハッカー、喜多嶋というキャラクターが登場します。

この喜多嶋、いわゆる映画のスターシステムとして機能していて、氏の作品に横断的に登場するキャラクターです。

スターシステム自体は良いでしょう。ファンサービスとしても、キャラクター説明を端折りテンポ感を出すという意味でも効果はあると思います。

しかし凄腕のハッカー、これはいかがなものでしょうか。

本作品を貫く力強いリアリズムの中に「天才ハッカー」が出てきてしまうと興がそがれることこの上ないです。他の作品でもそうですが、スーパーハッカー喜多嶋が問題解決装置として機能しなければ物語が推進しない場面も多々あり、「ハルヒシリーズの長門かよ…」と苦虫を噛み潰す場面もしばしば。

ぼくが常々言っている「天才ハッカー、もはやギャグなのでは説」が火を吹きます。シリアスな話と天才ハッカーは食合せが悪い。つらいところです。

カッコーの巣の上で

気を取り直して名シーンの紹介を。

劇中で映画「カッコーの巣の上で」について触れる箇所があります。この描写も実にうまい。

ぼくは登場人物に物語のテーマを直接語らせるという行為は好きではないのですが、このシーンは映画への付言という形でスマートにそれを表現しています。

映画の感想から持論の展開へ。この流れはとても自然で魅力にあふれています。

そして何より本書を読み終えた後「カッコーの巣の上で」また見たいなと思わせてくれるというのが素晴らしい。

引用元に触れたくなるような語り口を持つ作品は名作が多い。こちらもぼくの持論です。

まとめ

マンホール、オススメです!

さて、「カッコーの巣の上で」をレンタルしてこようと思います。