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Houdiniと、CG技術と、日々のこと。

書評: 亜人

『マンガには2種類がある。「頭で楽しむマンガ」と「目で楽しむマンガ」だ。』

ぼくは常々そう思っています。以前ご紹介した施川ユウキ作品は前者に類され、今回ご紹介する亜人は後者に類されます。

マンガ・小説・音楽・映画・ゲーム。表現手段はなんであれ、そのメディアの特性を活かした(ならではの)表現であるべきだとぼくは考えています。 小説は小説的に、映画は映画的に、音楽は音楽的に、ゲームはゲーム的に。そのメディアが持っている推進力を作品の魅力と重ねあわせて出力することで、魅力が増大する。そう思うのです。

ですから、例えば映画というフォーマットなのに登場人物に物語のテーマを全部喋らせてしまうような作品は好きにはなれないですし、どんなにその主題が刺さるものであったとしても、「映画以外でやればよかったんじゃないかなぁ」という感想を持つこともしばしばです。

そこで本作「亜人」です。アクションシーンの描写が実にうまいのは勿論のこと、絵とフキダシの位置大胆なコマ割りによるスピード感の演出が特出してうまいと感じました。 きっと作者は映画とマンガを両方共ものすごい数見てるんだろうなと思わせる、実に気持ちのいい画面となっています。

この手のバトル物はアクションシーンがカッコ良かったらそれだけで十分大満足なのですが、本作品はそれだけでは終わりません。キャラクターひとりひとりが際立った個性を持っており、しっかりとした実在感のもとストーリーが進んでいきます。

またこの物語は亜人というヒトではない生物の生態を鍵とした展開が主軸となっているのですが、佐藤というキャラクターがビルに潜入するシーンなど、よく考えたなと唸るほど。

例のアレが調理されてる最中に潜入作戦決行しちゃってたらどうすんだとかいうツッコミは置いておいて

凡庸な作者であれば亜人の生態について、物語が進んでいくにつれどんどん未知の機能が明かされて…といった方法で進行させていくところでしょうが、コアとなる機能は最小限に、できるだけ後出しジャンケンにならないようフェアに話を進めていく展開にも好感が持てます。

今まで出てきたキャラクターを本編に活かす場面が今後まだまだあるはずですので、この調子でお腹に力を入れて、ブレないよう執筆を続けてほしいといちファンとして願っています。

追伸

ひとつだけ残念に思う点を書いておくと、作中に出てくる「フォージ安全」という企業名についてです。これそのまま「フォージセキュリティー」とかの方がすんなり入ってきたんじゃないかなと思いました。

「カタカナ+漢字」という文字列が理解の速度を妨げている気がします。明確な意図がないのであれば、作品作りにおいてノイズはできるだけ排除したほうが良いなぁと思う次第です。