kick the base

Houdiniと、CG技術と、日々のこと。

映画評: クリーピー偽りの隣人

本ブログでは書籍や音楽、映画の紹介などにおいて基本的にオススメのものを紹介するというスタンスでしたが、今年から個人的にあまり刺さらなかったものもご紹介することとしました。

ネガティブな感想にも得るところはあるかも。と思った次第。

またネタバレも極力しない方針でしたがそれも変更し、ネタバレありのものは明記した上でより深いところまでお話できればと思います。

記念すべき第一回個人的に微妙だった作品は「クリーピー偽りの隣人」。ちなみに原作は未読です。

評価: ★★☆☆☆

以下ネタバレありです。

黒沢清監督作品について

まず第一に、本映画評では黒沢清氏自身の映画的指向については触れない方針とします。後にリアリティの欠如について語りますが、例えば「今時スクリーンプロセスを使うなんて!」といった話はしません。

これらは黒沢監督の美学であり、どっちかというと古き良き映画手法をオマージュするのはぼくも好きです。

そして氏の監督作品、CUREはぼくの好きな邦画トップ5に入るほどです。

なので以下は純粋に作品としての批評と思ってください。

支配について

主人公の妻である高倉康子、西野家の母である多恵子を支配下におくにあたって、薬物を使うという手段はどうなんだろうと思いました。

話術や駆け引きだけを用いて個人の思考力や自制心を奪っていく。そうした方がより狡猾なキャラクターを作り出すことが出来たのではないかなと思います。

またあれだけ薬物による支配が描写されるのであれば、どこから仕入れてくるの?という話がどうしても出てきます。

黒いつながりで入手しているとすればさすがにそこから足がつくでしょうし、自身で製造しているというのも無理がある設定でしょう。

こういうノイズは少ないに越したことはないですね。

警察!おい警察!!

いくらなんでも杜撰すぎるでしょう。谷本警部なんで一人で乗り込んでんの。最低でも2マンセルで行け!こりゃヤバイ雰囲気だなって思ったら本部に連絡しろ!ビジネスの基本、ホウレンソウとか知らんのか!と小一時間説教したい。

ギャグか。ギャグなのか?

シリアスな映画に面白い場面を入れるのが悪いとはいいませんが、こと知的なクライム・サスペンスにおいては悪手だと思わざるをえません。

なぜ6年もの間(もしかしたらもっと昔から)、犯人は警察の捜査から逃れることができたのか?という疑問の答が「追っかけてる方がバカだからです!」となったら冷めるでしょう。(ぼくは冷めました)

鉄の扉の向こう側

あの部屋なんなんでしょうか。寄生した西野家にたまたまあんな感じの部屋があったんでしょうか。んな馬鹿な。

それとも一家を支配下においてから増築したんでしょうか。いや、あんな特殊な部屋を作ったら流石にすぐバレるでしょう。

あれ、絶対普通の住宅の、普通の間取りでやったほうが良かったと思うんです。

「普通の住宅」でこんな惨劇が起こってる。この物語はぼくらの日常と地続きなんだ。としたほうがよっぽどこわい。

あれは物語の説得力を削ってでもホラーテイストな舞台装置を作りたかったんじゃないかなぁと邪推してしまいます。

本多早紀はなぜ一人生き延びたか

本作で一番もったいないと思うところなんですけど、本田早紀がなぜひとり生き残ることができたのか?が語られていない点です。

西野(香川照之)と接触を持っていた早紀以外の家族が、彼女だけは救おうとしたのでしょうか。しかしそうなると完全な支配下に置かれていないことになり話の筋が通らない。(誰かが通報なりしたでしょう)

西野の計画に邪魔だった場合、やはり口封じをしておくのが彼のキャラクター造形としてしっくりくる。のでこの線も採用しにくい。

そこで、思い出してきた記憶がかなり具体的である点を合わせると、本田早紀は澪と同じく西野の共犯者だった。なんて話だったらより面白かったんじゃないでしょうか。具体的に記憶しているのはまさに自身が当事者だったからというわけです。

もしくはもっと踏み込んで実は家族みんなと電話で直接指示を出していたのが早紀だった。とか。

精神の安定を求めるがため記憶の改竄が起こり、それを確認した西野は放っておいても害はないと生かしておいた。

そんな語り口があったらよりスリリングだったのではないかなと思います。

香川照之出過ぎ問題

もうこれはしょうがない部分ではあるんですけど、出過ぎですよね。香川照之。山田孝之しかり小日向文世しかり役所広司しかり樹木希林しかり、もう役というよりその人にしか見えない。

日本の映画、もっと色んな役者さんの演技を見たいなぁと思ったり。

まとめ

家庭乗っ取りものといえばヒュー・シーモア ウォルポールの銀の仮面、藤子A不二夫のやどかり家族、荒木飛呂彦の魔少年BTと、多くの作品があげられます。またここでは書きませんが実際に起きた痛ましい事件もこの日本で起こっています。

「誰の心も、本当のところはわからない」そういった暗い恐怖を描くためには、徹底したリアリズムが必要だったように思います。

クリーピーを見たいと思っているあなた、悪いことは言いません。CUREを見ましょう。

CURE、最高です。