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Houdiniと、CG技術と、日々のこと。

映画評: ザ・ギフト

今回は映画「ザ・ギフト」について。

大ドンデン返しがあるわけでもない。キテレツなストーリーでもない。
どこかで聞いたような、どこかで見たような復讐劇。

しかし、実に練られた脚本と確かなキャスティング、濃厚な映画体験が楽しめる快作になっています。
一度目に観たときは3.5点くらいかなと思ったのですが、2度目には4点に評価を変更しました。

評価: ★★★★☆

ネタバレ無しで行きますが、本評を読む前にご覧いただくのが良いでしょう。いやほんとに観たほうがいい。

実に丁寧に作られた、指の先まで神経の通った力作です。ものづくりはかくありたい。そう思わせてくれます。

全ショット、良い。

ストーリーの頭からエンディングまで、良いところをあげていくとほとんどのシーンを取り上げることになります。それくらい良い。

不穏な音楽、控えめだが実に豊かな演技。じっとりとしたライティング。記憶に残るセリフ。細部まで練られた脚本。

こういう作品に出会うために映画見てるんだよなーと思わせる、素晴らしい映画です。

素晴らしいカットの連続ですが、以下では特に光る場面を見ていきましょう。

出会いのシーンで描く対象的なふたり

食い違いは最初から。「ゴードン・モーズリー」と自己紹介するゴードンに対して、主人公のサイモンは「ゴード」と呼びます。

それが愛称ではなく、「weird(ウィード) Gordo」 = 不気味なゴードという蔑称から来たものと言うことが物語が進むにつれて分かって来ます。

つまりサイモンは久しぶりの再会に対し、マウントを取ろうとしたということです。「なんだ。お前あの(不気味な)ゴードか。」と。

このやり取りだけでサイモンの傲慢さ、パワーゲームに対するこだわり、格下の相手には不遜に振る舞う性格を見せることに成功していると言っていいでしょう。

このシーンなどはほんの数分。きめ細やかな作品作りにめまいがします。ブラボー!

ふたりの距離

また二度目の接触時にはゴードンは自分から「ゴード」と名乗ります。これを距離が縮まったとみるか、迎合と見るか。なかなか興味深い演出です。

サイモン邸で夕食をともにしている際、政府が盗聴をしていて許せないと言った話題が出ます。これ自体はふんわりとした伏線と言えなくもないですが、それよりもその後に続く「目には目をだ」というゴードのセリフ。

これは他の人にとっては世間話そのものですが、サイモンにとっては違う意味になるでしょう。その言葉を聞いたサイモンの一瞬の間もすばらしい。いい役者だなぁとため息が出ます。

全編を貫くパワーワード

「いいことの多くは悪いことから生まれる」

初見でも気になるセリフですが、2回目に観ると実にヘビーなこのセリフ。

「サイモン・セッズ(サイモンの言ったことは真実になる)」というセリフも実にいい。後々ストーリーの主題に重くのしかかってきます。

結末を見届けたあとぜひ複数回見て欲しい。本作は初見よりも2度目3度目の方が面白い映画に類されると思います。

逆転の構造

物語中盤でサイモンが妻のロビンに激昂するシーン。

「俺は前に向かって努力した。負け犬は立ち止まっているだけだ」と。

しかし物語が進むにつれ分かってきます。サイモンは何も変わっていない。成長していない。 対してゴードは復習という手段を選んだにせよ、過去から学んでいる。

物語の白眉、ゴードがサイモンのとあるセリフを真似るシーンなどはスタンディングオベーションしたくなるほど。鮮やかな立場の逆転。復讐とはまさにこういうものでしょう。

ドアの向こう側には

ドアはひとつのキービジュアルといえます。

本作では玄関のドアを固定カメラでとらえる印象的なショットが何度も出てきます。中で何か良くないことが起こっているそんな気配が漂ってきます。

もしくは外からではうかがい知れない人の内面のメタファーなのでしょうか。少々深読みしすぎな感もあるかもしれませんが、深読みさせる映画は良い映画の一側面の現れです。

そして最後のシーン。玄関とはまた違ったドア越しの風景。これ以上は書かないけれど、ぜひご覧いただきたい。

減点したところ

ほんとにいつも思うんですけど、映画にビックリ必要!?

犬がワン!とか、曇りガラスの向こうからバーン!とか。

この映画に限らずなんですけどね。映画の面白さってそこじゃないと思うんですよ。この映画、10回くらい驚いたから100点!とか、なんないでしょう?

僕は嫌だなぁと思うんです。ベロベロバー。いきなり驚かすことはショッキングとは違います。それは映画の本質ではない。

本作に関してはそのショックが積み重なってロビンのストレスになっていくっていう描写なのは分かるのですが、3回くらいそんな場面があるとどうしても鼻についてきます。本当にもったいない。

もうひとつあえて減点ポイントをあげるとすれば、新規性がないこと。フレッシュでは間違いなくない。サイモンのクズ加減は中々ないレベルだとは思いますが、ダークヒーローにはなれない。

ギフトとは

祝いは呪いに似ています。彼ら夫婦がこの先共に生きていくかどうかは分からないですが、彼らはこの先プレゼントをもらうたびにゴードのことを思い出さずにはいられないでしょう。

過去に縛られる。人に縛られる。これが呪いでなくてなんなのでしょうか。

まとめ

体力が満タンのときに観た方がいい。これはHPを削る系の映画です。

ほんとうにほんとうにオススメです!