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Houdiniと、CG技術と、日々のこと。

映画評: 母なる証明

今回は韓国映画の「母なる証明」について。

ぼくは韓国映画好きなのですが、その中でも上位3つをあげると

  • オールドボーイ
  • トガニ
  • サイボーグでも大丈夫

になります。が、本作はそれに食い込む勢いの素晴らしい作品でした。

ネタバレはなしとなりますが、作品を体験したあとのほうがきっと面白いので、ぜひ本編をご覧頂いたあと読んでいただければ幸いです。

イントロ

しょっぱなから何とも言えない表情でおばさんが踊っているという形容し難いシーンから始まる本作。

その踊りもダイナミックなものではなく、喜びなのか悲しみなのか安堵なのか分からない表情をたたえた顔といい、この世界に没入していいのかどうなのかよくわからない世界観が唐突に提示されます。

しかし、それで良いのです。主人公である彼女(母)の人間像がこの冒頭だけで暗示されています。

いびつで強力な息子への愛を描きながら、最後まで名前を呼ばれることのない圧倒的な記号性。

「母」と呼ばれる何かよくわからないものがこのイントロから滲み出してきます。

液体と物語

本作で印象的に描かれる「液体の表現」。

作品の湿度感を上げるのと同時に「染み込んでいく」「緩やかに広がっていく」狂気の暗示ともとれます。

  • トジュン(息子)が立ち小便をしながら母親に薬を飲まされるシーンの「小便」
  • 悪友ジンテの部屋でこぼした「ミネラルウォーター」
  • とあるシーンで流れる「血液」

あるときは俯瞰で、あるときは寄りで、じっくりと液体が広がる様をとらえるカメラワークが作品に緊張感と圧迫感を与えます。見事です。

ワイドショットが抜群にいい

引きの絵でバーンと状況説明をする場面が何度かあるのですが、その絵がどれも素晴らしい。

「マッコリの瓶を持っている婆さん」をカッコよく撮れてるのは、本作くらいなものじゃないでしょうか。

また広角のショットのアンバランスな画面構成が非常に秀逸です。構成要素のメインとなる人物や物をあえてど真ん中で見せない。

よくある手法といえばそうなのですが、それでいて一枚絵として決まっているのは実に素晴らしい構成力だと思います。確かな手腕を感じる点です。

演技力、どうなってるんですか

特に主役の母を演じるキム・ヘジャとトジュン役のウォンビン、ふたりとも実在感が半端ない。そういう人にしか見えないです。

トガニも「おいおいこれ大丈夫か」というくらいの演技力でしたが、韓国映画にはすごい俳優しかいないんですかね。

特にトジュンが混乱して携帯を何度も開け閉めするあのシーン、脱帽です。

落ちていく先には

物語終盤に伏線が回収されていくのですが、ミステリのように鮮やかな回収という訳ではなく、どちらかと言えば淡々とピースが埋まっていきます。

すべての「なるほど」が揃った段階で物語はエンディングを迎えるのですが、このひとつひとつ大切なものを捨てていく母親ひとつひとつ大切なものを失っていく息子の輪舞曲はどこに続いているのか、スタッフロールを見ながら考えてしまいました。

彼らが緩やかに落ちていった先には地獄しかないのですが、この世界はすべからく地獄なのかもしれません。

そう言った意味で、本作品はこの世界を描ききったとも言えましょう。

実に素晴らしい作品でした。オススメです。