今回は映画「ナイトクローラー」についての評論です。本作品の題材は報道スクープ専門のパパラッチなのですが、見どころは主人公のキャラクター造詣につきます。
今までにないタイプの狂気。
ネタバレなしで本作品の魅力に迫ってみたいと思います。
ルイス・ブルームという男
本作の主人公であるルイス・ブルーム。彼はいわゆるサイコパスとして描写されているのですが、同時にある種のカリスマとしても描かれています。
「さすがディオ!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!」
- 『ジョジョの奇妙な冒険』・第一部より引用
という感じです。ジョジョの奇妙な冒険に出てくるディオは確固たる自分の意志で「踏み外す」タイプのダークヒーローですが、ルイス・ブルームは少し異なります。
ルイスは自分が間違っているとは1mmも思っていない。
自分が正しいと信じている(もちろん本当に正しいかどうかは別問題)がゆえにブレーキを踏まない。ブレーキどころかためらわうことなくアクセルを踏み込む。
彼の行動原理は物語が進むにつれ明らかになっていくのですが、一言で言うなら彼は現代資本主義の狂信者と言えましょう。
そう、彼のギラギラと光る目は、狂信者の目なのです。
サイコパスキャラの宿命として、常識から逸脱すればするほどさすがにそんな奴はいないでしょと冷めさせてしまうこともしばしばです。
ルイスは確かにホンモノのサイコパスですが、静かな実在性を持って僕達に迫ってきます。
なぜか。
それは彼が「セミナーやネットで知識のみを増やし、経験値が伴わないまま野心だけが暴走する若者」のアイコン足り得るからでしょう。普通にいそう。特に都会に。
上述の頭でっかちな若者は往々にして悪い大人に搾取されて終わり、となることが多いのですが、ルイスは持ち前の賢さとたゆまぬ努力で前進し続けてしまう。そこが本作品のこわいところでしょう
圧巻の演技力・優れた演出
- 主人公ルイス・ブルームを演じるジェイク・ジレンホール。
- ディレクターであるニーナ・ロミナを演じるレネ・ルッソ。
- ルイスのアシスタントであるリックを演じるリズ・アーメッド。*1
全員めちゃくちゃ演技がうまいです。
その中でもキャラクター造詣とあいまってジェイク・ギレンホールの演技は突出して良い。あきらかに意図的だと思いますが「まばたきをほとんどしない」という全編を通して違和感。そして笑顔でさえも練習して習得した感じ。実に素晴らしい。(ちなみにトイストーリーのウッディに表情が似てる感じがしました。オモチャっぽい。)
ニーナの崖っぷち感も良い。ディレクターとして確かな手腕がありながら、旬の人ではない感じ。自分のタイムリミットに苛立っている感じ。絶妙です。
リックの学がない感じやディベートが弱い感じ、小物感。どれをとっても良い。
ここに名を上げなかった俳優陣も非常にいい演技をしています。見ている間、そこにドラマが実感できる素晴らしいキャストでした。
優秀なキャストに支えられ、演出も光ります。
物語の白眉、生放送がディレクターの指示によってより刺激的に、より不安を煽るように再構成されていくシーンは圧巻です。
本作品ではカーチェイスシーンも多く、動きのある絵も多いですが、それらを遥かに凌ぐスリリング感。報道の現場、それ自体が実に巧みにエンターテイメントとして表現されています。
ひとつの部屋の中だけでもダイナミックに物語を展開させることができるというお手本のような名シーンです。
彼を産んだものは何か
ルイスの印象的な「Quick Learner(覚えが早い)」というセリフ。これが彼の人生観を端的に表しています。彼は、この資本主義から多くのものを学んだのです。
彼の教育者は社会であり、彼のいびつさはそのまま社会のいびつさでもあります。
ルイスは共感を拒むタイプのキャラクター造形ですが、つまりは本作品は彼を通してそれはこの社会がおかしいんだぜとぼくらに突きつけてくるのです。
少し残念な点
中盤、鏡を割るシーンは正直いらなかったかな…と個人的には思います。 「激昂」という人間らしい感情の起伏がないほうが彼のキャラクター造詣に即している気がします。もちろんエンターテイメント性を重視したのだと思いますが。
ただ転んでもただでは起きないのがこの映画のすごいところ、鏡を割った後振り返って部屋に戻るときにはすでに普段の顔に戻っているという演出は良い。怒りが継続しないというのは非常にルイスらしい描写です。
まとめ
ルイス・ブルームという新しい個性を見るためだけでもこの作品を観る価値は十分にあります。
あなたの身近の成功者に、ルイス・ブルームという男は紛れ込んでいるかもしれません。
オススメです。
*1:Riz MC名義でラッパーもされてるとのこと。多彩だ…